ブログ

110番のEさん(後半)

こちらの続きです。
(個人情報保護のため事実脚色をしています)

私の携帯電話が鳴ったのは23時半頃。事業所からの着信で、「今度は僕が110番していいですか?」と慌てた様子の夜勤担当のスタッフ。

またもや「?」が頭をめぐりながらも「身の危険を感じたら110番を」と伝えて駆けつけると(該当事業所は自宅から車で15分程度でした)事業所前にパトカーが3台。

中に入ると警察に囲まれてうなだれて座るEさんと、夜勤スタッフの疲れた顔。
話を聞くと、Eさんは一回眠りについたものの、目覚めてまた「誘拐された!」と思い込み、後ろを向いて座っていたスタッフに飛び掛かりました。
驚いたスタッフがEさんを抑え、その状態で私に電話をしていました。

その後更にEさんは消火器を持って振り下ろして攻撃してきたと言います。
幸いスタッフが避けたため大きな怪我はありませんでしたが、ここでスタッフが110番。

間もなく管理者M君も到着し、警察との話し合いの結果、スタッフは事件にしない事を望みましたがご本人は精神疾患の疑いが強く、危険行為もあるという事で病院へそのまま移送されることになりました。

元々夜勤をしていたスタッフの疲労は激しく(当然です)、他にもご利用者がいたため管理者が夜勤に入り、私が付き添う事に。

精神病院まで片道1時間弱。深夜パトカーの後ろをついて運転した、病院へと続く暗い道を今でもありありと思い出します。

Eさんは医師の診察の後措置入院という事になり、そこで事業所の利用は終了。
私もそこからはEさんと会う事もかなわず、無力感を引きずったまま事業所に寄って管理者に報告して帰宅しました。

介護施設として受け入れをする難しさをこの時ほど感じた事はありませんでした。

Eさんについて正式な病名等を聞く事はできませんでしたが、ご本人としては正当防衛だったのだと思いますので、きっと相当な恐怖だったのでしょう。
そう考えると心が痛みます。

Eさんはきっと精神疾患を抱えながらも一人暮らしだった事から誰にも知られずに過ごしてきていました。
もしかしたらどこか他の場所で事件を起こしてしまっていたかもしれません。
誰も怪我をする事なく結果的には医療につなげる事ができたのが不幸中の幸いでした。

本当に困っている方に対しての緊急の受け入れについては必要です。でも、それにはこんなリスクもあります。
福祉事業者としての正しい姿勢とはリスクを知り、広い視点で、でき得る限りの安全策を取って、絶対に見捨てない。という事だと思います。
例えば医療に繋げる、行政に繋げる、という事も含めての『見捨てない』です。

この当時、私は受け入れるまでのリスク対策を十分に指示できていませんでした。そのせいで大事なスタッフを危険な目に合わせてしまいました。
その当時の夜勤スタッフも今では他の介護施設で管理者を任されているそうで、あそこで介護を嫌いにならないでくれた事に感謝しています。

福祉の現場では時に想像を超えた出来事が起こります。
そういった時には思い切って他の人や組織に頼る事も必要だと、痛感させられた出来事でした。

PAGE TOP