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亜希子さん(仮名)の話

せっかくのブログなので、介護の仕事を通じて学んだことを書いてみようと思います。
今回は介護職員として勤務していた頃のご利用者のお話。
(プライバシーに配慮して一部脚色しています。)


夕方になるといつも「もう帰らなきゃ」と玄関に向かわれる亜希子さん。
「息子が学校から帰ってくるから」そういう息子さんは既に70歳近く。
そして、30秒おきに同じ話を繰り返す。

亜希子さん「私のお財布が無いのよ」

職員「財布は大事だから預かってますよ」

亜希子さん「そう。よろしくね。ところでお財布知らない?」・・・(施設にお財布は持ってきていません)

そんな亜希子さん、ある日の夕方いつもにも増して落ち着かない。
室内をうろうろ歩きまわり、「もう行かなくちゃ、私どうしたら良いんだかわかんなくなっちゃったわよ」。
職員が何とか落ち着いてもらおうと「大丈夫ですよ」と話しかけても「大丈夫じゃないわよ!」とお怒りモード。
しまいにはアチコチの椅子をどかしたり、他のご利用者を押しのけたりしはじめてしまう。
何を言っても聞いてもらえず、途方に暮れた私は亜希子さんに思い切ってこの状況を相談してみることにした。

私「亜希子さん、今私、困ってるんです。」すると、
亜希子さん「あら何?どうしたの?話してごらん。」
亜希子さんは優しい。自分の事より人の事を優先する。

私「どうしても、気持ちが伝わらない人がいるんです。その人は何だか今の状況が嫌みたいで。何とかしたいんだけど何をしてあげれば良いのか分からなくて。」
亜希子さん「あなたが頑張っているの、みんな分かってるわよ。大丈夫よ。」
そう言いながら優しく肩を抱いてくれる。
さっきまでの不安な瞳は消え去って、慈愛に満ちた表情で私を見ている。
何とか私を励ますことに一生懸命になって、自分の心配がどこかに行ってしまったよう。
あんまり優しい声で励ましてくれるから、それからリアルな相談話をたくさんしてしまいました。笑

認知症になって、目の前にいる私が正確には分からなくても、困っている人がいたら何とかしたい。
そう思う亜希子さんの心はそのままなんだよなぁと、とてもあたたかい気持ちになりました。

この、気持ちが繋がる瞬間が何とも言えず幸せだったなぁとしみじみ思う、そんな亜希子さんとの思い出のお話でした。

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