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五郎さん(仮名)と介護職員A君のお話

今回はデイサービスの管理者として勤務していた頃の、ご利用者と職員のお話です。(プライバシーに配慮して一部脚色しています。)
よろしければどうぞ。


五郎さんは、高齢になって介護が必要になった奥様を長年自宅で介護していた。その奥様に先立たれ、直後ご本人も認知症を発症。
私が管理者を務めるデイサービスをご利用されることになった。

五郎さんはよく「そば頼んでくれよ!すぐ隣なんだよ。大丈夫、俺だって言えばすぐ持ってきてくれるよ」
とデイサービスでも言っていた。日本そばが大好きなのだ。
そんな五郎さんのために皆でお蕎麦をゆでた事もあったっけ。

五郎さんのご利用開始と前後して、職員A君が入社した。
本当は違う部門を希望していたようだがまずは介護職員からと、デイサービスに配属された。
A君は当初あまり一生懸命なタイプではなかった。現場からと言われた事に対して不満があったのだろうと思う。

そんな中でもA君は要領良く業務をこなし、他のスタッフからも信頼されるようになってきていたし、頭の回転の速いA君を私も頼りにするようになっていた。けれどご利用者に対してはやはり一線を引いているというか、『ソツなく対応している』というか、何となくもやもやするものがあった。

そんなある日の業務終了後、A君とプライベートな話をちょっとした。
A君は長く付き合っている彼女がいるが、結婚したい彼女に対して今一歩踏み出せないでいるようだった。

「明日五郎さんに相談してみましょう。私も聞いてみたい!」

A君「五郎さん、結婚って何ですかね?」
A君は私に言われたから仕方なく、聞いている。表には出さないが(どうせ分かんないと思うけど)と心の声が聞こえるようだった。

五郎さんは目を瞑ったままゆっくりと息を吸うと、こう言った。
「ただそばにいる。それだけでいい。」

長年奥様を介護し続けた五郎さん。その五郎さんから聞いたその言葉はめちゃくちゃかっこよかった。正直しびれた。

そして、その瞬間のA君の顔がこれまた忘れられない。
不意を突かれたかのような、笑顔とも驚きとも、なんとも言えない情けない顔をしていた。笑

それからA君は変わった。
もしかしたら私の願望がそう見せただけかもしれないが、少なくとも五郎さんとは何だか楽しそうに話をするようになったし、
ご利用者を介護をする対象としてではなく、一人一人それぞれ長い人生を歩んできた先輩として接するようになったように見えた。

結局A君はその後しばらくして退社するのだが、それでもあの瞬間、A君は五郎さんから何かを感じ取ってくれていたと信じている。
ご利用者と出会ってスタッフが成長していく、それを間近で感じる事ができた管理者時代、毎日が幸せでものすごく充実していた。
その中から今日は五郎さんとA君のお話でした。

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