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障害者の逸失利益について思う事

月に1度の勉強会、社労士介護研究会に今月も参加しました。
その中でこんな判例が紹介されました。

平成31年の裁判で比較的新しいものです。
要約して説明すると、障害者施設に入所していたAさんが、鍵の閉め忘れがあった玄関から外に出てしまい、
2か月後に山中で亡くなっているのが発見された、という事件です。

ご両親はAさんが亡くなったのは施設側が鍵をかけ忘れた事が原因であるとして、
慰謝料等を求める損害賠償訴訟を起こしました。

施設側としても鍵をかけ忘れた事への責任については当初から認めていましたので、
主な争点はAさんが亡くなった事による「逸失利益の有無及び額」となりました。

「逸失利益」というのは、一般的に交通事故などで死亡したり働けなくなってしまった場合に、
もし事故に合わなければ得られたはずの収入、つまりその人が働き続けた場合に得られた賃金です。

障害者の逸失利益について、過去の裁判例では
養護学校で亡くなった児童に対して地裁では福祉就労を前提とする金額(月に2~3万程度)となり、
控訴して最低賃金での算定となったケースがありました。

つまり過去では障害者、障害児の場合の逸失利益は「健常者の賃金水準には劣る」という事が前提となっていたと言えます。

今回の件で、Aさんは重度の知的障害があるために施設入所をしていました。
つまりその時点では就労によって賃金を得るという状況ではありませんでした。
しかし、結論として平均賃金で算定をした逸失利益が認定されました。

この判決の背景には、障害者雇用促進法の浸透により障害者の就労に対する理解が進んできている事があります。
障害者それぞれの特性を生かせる環境や配慮があれば、十分に能力を発揮して就労する事ができる可能性が
裁判でも認められているという事になります。

実際に障害者就労支援に関わる方々からすれば「そんなに簡単じゃないよ」という声もあろうかと思います。
それでも、「誰にでも可能性はある事を法律家が認めている」というのは個人的には社会が良い方向に進んでいるような気がします。

もし自分が施設側の立場だったらなかなか辛い判決ではありますが、
それでも施設側は控訴もせずにこのまま決着したそうです。
離設事故を起こしてしまい、それが最悪の結果につながったということは他人事とは思えずに心が痛みますが、
その中で判決を受け止めて決着した施設責任者はどんな想いだったことか。

障害者の就労に対する社会の意識の変化について感じると共に、
日々精一杯対応していたであろう施設のスタッフの方を思うとなんとも辛い、
色々な事を考えさせられる勉強会テーマでした。

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