今回は記憶に強く残っているご家族のお話をしたいと思います。
(プライバシーに配慮して事実を一部脚色しています。)
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橘さんは普段とてもお上品な、「おばあちゃま」といった雰囲気のご利用者様。
足腰が弱ってしまっており、外では車いす、室内では職員の手につかまっていただいて移動する。(これを手引き歩行と言ったりします)
認知症で記憶が続かないせいもあり同じ事を何度も訪ねるが、すぐに職員が返事ができないと不安から声を荒げてしまう事もあった。
利用開始前にまずはご自宅での生活を知るために娘さんと住むご自宅に伺った。
とてもお母さん思いの娘様でお母さんに介護が必要になるとすぐに一緒に暮らす事を決めて引っ越してこられたそうだ。
「父は忙しくほとんど家にいなかったので、母がずっと一人で育ててくれました。だから今度は私が精一杯母の面倒を見てあげたいと思っています。」
ご自宅での生活を伺うと、娘さんは食事の用意、病院の付き添い、昼夜問わず頻繁なトイレへの付き添い、昼間も一緒に編み物などをして過ごし、毎日の歩行訓練も欠かさずに行っているとの事だった。
そして、更にこう続けた。
「本当はデイサービスなんかに行くんじゃなく、私がずっと見てあげられたら良いんですけど、私も自分の通院だったり最低限の用事を済ませないといけないので週1回だけお願いしたいと思ってます。」
そうですか、とふと棚を見ると写真が飾ってあった。
視線に気づいた娘さんは
「私、ずっと合唱サークルに入っていたんです。でもお母さんがこんな状態になっちゃったのに私だけ遊んでいるわけにいかないんで、やめました。」
あれ?これでいいんだっけ?
家族に介護が必要な人がいたら遊んじゃいけないんだっけ?
「・・・あの!週2回にしませんか?」
気付いたらそう声に出していた。
「いえ、無理にじゃないんです。
でも、娘さん一人が無理してたんじゃ長く続きません。だから、好きな事する時間、作った方が良いような気がして。」
娘さんは驚いたように
「え?いいんですか?」
と言った。もちろんです!そのためにいるんです!と胸を張る私に、
「私、今まで一人で頑張らなきゃって思って・・・」
そこまで言って言葉を詰まらせ、しばらくして、
「週2回にして、またコーラスやろうかな!」
と笑った。
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優しい、真面目なご家族ほど、頑張りすぎてしまう傾向にあります。
結果、ご家族がノイローゼになってしまったり、最悪の場合には矛先が介護を受ける高齢者へ向いてしまい虐待、という事も。
いつまでも愛情を持って接し続けられるように、無理をしない事が大事。
ご家族がイキイキとしている事が結果的にご本人の気持ちの安定につながっていくこともあります。
ひと昔前に比べると介護サービスを受ける事へのご家族の抵抗は少なくなってきたように思います。
育児も介護も、もっとオープンに、社会全体で取り組んでいけると良いですね!