先日、脳科学者中野信子先生の「脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体」を読みました。
その中で面白い実験が紹介されていたので取り上げてみます。
1945年にカール・ドゥンカーという心理学者が考案した「ロウソク問題」という実験で、1962年にグラックスバーグという科学者が条件を追加した実験を行いました。
概要を説明していると文字数を取ってしまうので興味のある方はこちら(Wikipedia)をご覧いただきたいのですが、ざっくり言うと、「成績が良かったらお金をあげる事にしたら、難しい課題で結果が悪くなった」という事です。
簡単な課題では金銭的報酬を約束した方が結果が良く、複雑な課題(発想の転換が必要)では逆でした。
これについて中野先生は「明確な金銭的報酬というのは視野を狭め集中力を上げる。」と結論付けています。
つまり、金銭的報酬がある事で柔軟な発想が阻害された可能性があるという事です。
という事を、介護職員の人事評価制度に当てはめてみると大変な事に気づきます。
介護施設には処遇改善加算という形で賃金制度づくりが推奨されています。
その中のキャリアパス要件として、
Ⅰ…職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること
Ⅱ…資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること
Ⅲ…経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること。
と定められています。
ⅠⅡはそのまま賃金制度、つまり金銭的報酬をつくりなさいということです。
介護職員の仕事は対人援助という、柔軟な発想と臨機応変さが多く求められる仕事ですから、金銭的報酬のおかげでパフォーマンスが下がるならもったいなさすぎます。
そうなってくるとそもそも処遇改善加算の取得はしない方が良いのではないかという気までしてきます。
ところが、中野先生は金銭的報酬の他に社会的報酬というものを定義しています。
「報酬としてお金を得たとき」と「褒められたとき」は脳の全く同じ部分が反応するそうです。
いずれも脳内麻薬により快感を得る『報酬系』という人体の仕組みです。
先ほどの実験では「お金をあげます」と言わなかった方のグループには「実験データを取らせてください」という感謝を期待させるメッセージがありました。
つまり、難しい課題を素早く解決した人は社会的報酬を得る事による快楽を予想できていました。
社会的報酬を得る事で人は難しい課題に立ち向かう事ができるのかもしれません。
話を人事評価制度に戻します。
給与を上げるという事は、経営者からの評価・感謝を表す手段です。
つまり、給与は本来は評価・感謝という社会的報酬を単に金銭に置き換えただけのものであるはずなのです。
これが上手く職員に伝わっていない場合には、給与を上げてもらい金銭的報酬を得る事だけに視野を狭めてしまうという最悪のパターンに陥るのではないでしょうか。
つまり、良い順から
1位 評価・感謝+それを具現化した尺度である給与UP
2位 評価・感謝のみ
3位 何もしない
4位 給与UP
となります。
何となく、2位と4位が逆のような気がしていましたが、おそらくこれが真実なのでしょう。
という事でとにかく感謝を伝えて評価するというところを今後も着目しながら制度設計のお手伝いをしていけたらと考えています。